万年筆を初めて使う人が知っておきたい基本|初心者の使い方・書き方・お手入れ

万年筆に興味はあっても、「扱い方が難しそう」「インクをこぼしそう」「普通のペンと何が違うのか分からない」と感じている人もいるでしょう。

万年筆は、ボールペンとは少し仕組みが異なります。しかし、最初に覚えることはそれほど多くありません。

万年筆・モンブラン

ペン先の向きを確認し、強い力を加えず、使い終わったらキャップを閉める。
このような基本を守れば、初めての人でも気軽に使い始められます。

万年筆は、インクを補充しながら長く使える筆記具です。
手紙や日記、勉強のノート、仕事の記録など、さまざまな場面で使えます。
使い捨てるのではなく、手入れをしながら一本の道具と長く付き合っていけることも、万年筆の魅力です。

初めて万年筆を使うお兄ちゃん

この記事では、初めて使う人が知っておきたい万年筆の基本を、仕組みや選び方、インクの入れ方、正しい書き方、お手入れ方法の順に紹介します。

目次

万年筆はボールペンと何が違う?

ボールペンと万年筆の書き方の違い

万年筆とボールペンは、どちらもインクを使って文字を書く道具ですが、紙へインクを届ける仕組みが異なります。

ボールペンの先端には小さな球があり、その球が回転することで、内部のインクが紙へ移ります。
そのため、ある程度の筆圧をかけながら書くことが一般的です。

一方、万年筆は、軸の中にあるインクがペン芯を通り、ペン先まで少しずつ送られる仕組みです。
紙にペン先を触れさせるとインクが流れ出るため、強く押しつけなくても文字を書けます。

インクをペン先へ送りながら書く筆記具

万年筆のペン先の裏側には、「ペン芯」と呼ばれる部品があります。

ペン芯には細い溝があり、その溝を通って軸の中のインクがペン先へ送られます。
同時に、インクが出た分だけ空気を軸の中へ取り込むことで、インクが安定して流れるようになっています。

ペン先とペン芯の働きによって、万年筆はインクを少しずつ紙へ届けながら文字を書き続けられます。

強い筆圧をかけなくても書ける

万年筆で最初に意識したいのは、「強く押しつけないこと」です。

ボールペンを使うときのように力を入れると、左右に分かれたペン先が必要以上に開き、インクの流れや書き心地が悪くなることがあります。強い筆圧をかけ続けると、ペン先が変形する原因にもなります。

万年筆は、ペン先を紙に軽く触れさせ、紙の上を滑らせるように動かします。
初めは力加減に戸惑うかもしれませんが、「ペンの重さを利用して書く」くらいの感覚で十分です。

パイロットも、万年筆はインクが染み出すことで筆記できるため、ボールペンのような強い筆圧は必要ないと案内しています。

出典:PILOT|万年筆を使う時の注意点

インクを補充しながら繰り返し使える

万年筆は、内部のインクがなくなっても、カートリッジを交換したり、ボトルからインクを吸い上げたりすることで繰り返し使えます。

ペン本体を使い捨てるのではなく、必要に応じてインクを補充し、汚れたら洗浄しながら使い続ける筆記具です。

好きな色のインクを選べることも、万年筆ならではの楽しみです。
ただし、使用できるインクやカートリッジは製品によって異なります。
色だけで選ばず、万年筆に適合しているかを確認する必要があります。

最初に覚えておきたい万年筆の各部分

万年筆の各部分

万年筆にはいくつかの部品がありますが、初めから細かな構造をすべて覚える必要はありません。

まずは、使い方やお手入れの説明に登場する基本的な名称を知っておきましょう。

部分の名称主な役割
ペン先紙に触れて文字を書く金属部分
ペン芯軸の中からペン先へインクを送る部分
首軸書くときに指で持つ部分
胴軸カートリッジやコンバーターなどを収める本体部分
キャップペン先の乾燥や衝撃を防ぐ部分

文字を書く「ペン先」

万年筆の先端にある金属部分がペン先です。「ニブ」と呼ばれることもあります。

ペン先は左右に分かれており、その中央に「切り割り」と呼ばれる細い隙間があります。
ペン芯から送られてきたインクは、この隙間を通って紙へ届きます。

ペン先には、極細字、細字、中字、太字などの種類があります。太さだけでなく、硬さや形状によっても書き心地が変わります。

インクを送り出す「ペン芯」

ペン先の裏側にある部品がペン芯です。

一見すると目立たない部品ですが、インクをペン先まで安定して届ける重要な役割を担っています。
ペン芯が乾燥したり、古いインクや紙の繊維が詰まったりすると、インクが出にくくなることがあります。

インクが出ないからといって、ペン芯を自分で引き抜くのは避けましょう。
ペン先とペン芯は正確な位置に調整されているため、無理に分解すると元に戻せなくなる可能性があります。

指で持つ「首軸」

ペン先の後ろにあり、書くときに指を添える部分が首軸です。

首軸の太さや形、表面の滑りやすさは、持ちやすさに関係します。
長時間使う場合は、指に余計な力を入れずに持てるかどうかも大切です。

インクを収める「胴軸」

万年筆の本体に相当する部分が胴軸です。

胴軸の内部には、カートリッジやコンバーターなどが収められています。
製品によっては、胴軸の中へ直接インクを吸入する構造になっているものもあります。

胴軸は樹脂や金属、木材など、さまざまな材料で作られています。
素材によって重さや手触り、お手入れ方法が異なるため、特殊な素材を使った万年筆は、取扱説明書を確認して扱いましょう。

乾燥と衝撃から守る「キャップ」

キャップには、ペン先を保護するだけでなく、インクの乾燥を防ぐ役割があります。

万年筆は、ペン先やペン芯の中でインクが乾くと、書き出しがかすれたり、インクが出なくなったりします。短時間でも席を離れる場合や、長時間使用しないときはキャップを閉めておくと安心です。

初めての万年筆を選ぶときのポイント

万年筆のペン先の太さを試し書き

初めての万年筆は、価格や見た目だけでなく、「どこで何を書くのか」を考えて選ぶことが大切です。

日記に使うのか、手帳の細かな欄に書き込むのか、手紙を書くのかによって、使いやすいペン先の太さが変わります。

初めて使う場合は、細字か中字が使いやすい

一般的な万年筆では、次のようなペン先が用意されています。

表記一般的な呼び方向いている用途
EF極細字手帳、細かな書き込み、小さな文字
F細字ノート、日記、手紙、普段使い
M中字手紙、少し大きな文字、インクの色を楽しむ
B太字宛名書き、サイン、大きな文字

初めての一本としては、用途の幅が広い細字を選ぶとよいでしょう。
パイロット社も、細字をノートや日記、手紙など幅広い用途に適したペン先として紹介しています。
詳しくは「PILOT|万年筆のペン先の種類」をご覧ください。

ただし、同じ「細字」や「中字」という表記でも、メーカーや製品によって実際の線の太さは異なります。使う紙やインクによっても、文字の太さやにじみ方が変わります。

可能であれば、文具店などで試し書きをしてから選ぶと安心です。

実際に持ったときの太さと重さを確認する

万年筆は、軸の太さや重さによって持ったときの印象が大きく変わります。

細い軸が持ちやすい人もいれば、ある程度太さがあった方が指に力を入れずに持てる人もいます。
軽い万年筆は持ち運びやすく、重さのある万年筆は筆記時に安定感を得やすい傾向があります。

ただし、持ちやすさは手の大きさや持ち方によって異なります。
ペンを持ったときに、親指、人差し指、中指へ無理な力が入っていないかを確認しましょう。

キャップを胴軸の後ろに付けて書く場合は、その状態での重さやバランスも確認します。
キャップを付けると後ろが重くなる製品もあるため、持ちにくい場合はキャップを付けずに書きましょう。

インクの補充方法を確認する

万年筆のインク補充方法は、大きく分けて次の3種類です。

補充方法特徴初めて使うときの注意点
カートリッジ式インク入りの容器を交換する適合するカートリッジを確認する
コンバーター式ボトルからインクを吸入する本体に適合するコンバーターが必要
吸入式本体に内蔵された機構で吸入する製品ごとの操作方法を確認する

カートリッジ式は交換が簡単で、外出先でもインクを補充しやすい方法です。
初めて使う人は、まずカートリッジ式から使い始めると、インクの補充方法を理解しやすいでしょう。

さまざまな色のボトルインクを楽しみたい場合は、コンバーター式や吸入式が適しています。

カートリッジとコンバーターの両方を使用できる「両用式」の万年筆もあります。
ただし、すべての製品が両方に対応しているわけではありません。

交換用インクを入手しやすいものを選ぶ

初めての万年筆を選ぶときは、本体だけでなく、交換用カートリッジや対応するコンバーターも入手しやすいものか確認しましょう。

カートリッジの形状は、メーカーによって異なります。
同じメーカーの商品でも、製品によって使用できるカートリッジやコンバーターが異なる場合があります。

購入するときは、次の点を確認します。

  • 使用できるカートリッジの品番
  • 対応するコンバーターの品番
  • ボトルインクを使用できるか
  • 本体にカートリッジやコンバーターが付属しているか

分からない場合は、万年筆本体を購入した店舗やメーカーに確認するのが確実です。

万年筆にインクを入れる方法

万年筆にインクを入れる前に、机の上を整理し、ティッシュペーパーや汚れてもよい柔らかい布を用意します。

インクは、一度付くと落ちにくいことがあります。
机の上に不要な紙などを敷き、白い衣服や大切な書類を近くに置かないようにしましょう。

手軽に交換できるカートリッジ式

一般的なカートリッジ式万年筆は、次の手順で装着します。

  1. キャップを外す
  2. 胴軸を回して首軸から外す
  3. ペン先を上に向ける
  4. 適合するカートリッジを首軸へまっすぐ差し込む
  5. 奥まで確実に差し込まれていることを確認する
  6. 胴軸を元に戻す
  7. ペン先までインクが届くのを待ってから試し書きをする
万年筆のカートリッジを装着

カートリッジを差し込むときは、回さずにまっすぐ押し込みます。
パイロット社は、回しながら差し込むと首軸の内部を傷めることがあると案内しています。
詳しくは「PILOT|万年筆の使い方」をご覧ください。

新品のカートリッジを装着しても、すぐには書けないことがあります。
カートリッジからペン先までインクが届くには、少し時間が必要です。

インクが出ないからといって、万年筆を強く振ったり、ペン先を机に押しつけたりしてはいけません。
まずはキャップを閉めてしばらく待ち、もう一度試し書きをします。

製品の説明書に記載がある場合は、カートリッジの側面を指で軽く押して、インクをペン先へ送ることもできます。
ただし、強く押すとインクが急に出る可能性があるため、説明書を確認したうえで慎重に行いましょう。

好みのボトルインクを吸入できるコンバーター式

コンバーターは、カートリッジの代わりに万年筆へ装着する吸入器です。

一般的な回転式コンバーターでは、次の手順でインクを吸入します。

万年筆のペン先をボトルインクへ浸し、コンバーターでインクを吸入している
  1. 万年筆に適合するコンバーターを首軸に取り付ける
  2. コンバーターのつまみを回し、内部のピストンを下げる
  3. ペン先をボトルインクへ浸す
  4. つまみを反対方向へゆっくり回してインクを吸入する
  5. ペン先をボトルから取り出す
  6. ペン先や首軸に付いたインクを柔らかい紙や布で拭き取る
  7. 胴軸を取り付ける

ペン先は先端だけでなく、ペン芯もインクに浸る深さまで入れる必要があります。
必要な深さは製品によって異なるため、取扱説明書を確認してください。

ペン先をインク瓶の底や縁にぶつけないよう注意し、吸入操作は急がずゆっくり行いましょう。
詳しくは「セーラー万年筆|万年筆のインク補充方法」をご覧ください。

本体へ直接インクを吸入する方式もある

吸入式万年筆には、本体にインクを吸入するための機構が組み込まれています。

コンバーターより多くのインクを入れられる製品もありますが、尾栓を回す方式やプランジャーを動かす方式など、操作方法は製品によって異なります。

初めて使用するときは、見た目だけで操作せず、必ず付属の取扱説明書を確認しましょう。

カートリッジやコンバーターは適合を確認する

カートリッジやコンバーターは、万年筆に差し込めても、必ず使えるとは限りません。

メーカー独自の形状を採用しているものや、同じメーカーでも一部の製品に対応していないものがあります。無理に差し込むと、接続部分を傷めたり、インク漏れを起こしたりする可能性があります。

購入するときは、パッケージに記載された対応商品や品番を確認してください。

ボトルインクを選ぶ際も、まずは万年筆のメーカーが推奨する万年筆用インクを選ぶとよいでしょう。
メーカーによってインクの成分や粘度が異なるため、他社製品ではインクが正常に流れない場合があります。

参考:PILOT|他社製インクの使用について

染料インクと顔料インクの違い

万年筆用インクには、主に染料インクと顔料インクがあります。

種類特徴注意点
染料インク水に溶けやすく、色の種類が豊富水濡れや光による退色に注意する
顔料インク耐水性や耐光性に優れた製品が多い乾燥や目詰まりを防ぐため、こまめな管理が必要

染料インクは比較的扱いやすいため、初めて使う場合の選択肢の一つです。

顔料インクは保存性に優れていますが、万年筆の中で乾燥すると洗浄しにくくなることがあります。
使用できる万年筆や洗浄の頻度については、インクメーカーの説明を確認しましょう。
詳しくは「セーラー万年筆|インクの染料と顔料の違い」をご覧ください。

異なるインクを万年筆の中で混ぜることも避けましょう。
色が混ざるだけでなく、インクの組成が変化し、詰まりの原因になる可能性があります。

混色を前提として作られた専用インクを除き、色を変更するときは、前のインクを抜き、万年筆を洗浄してから新しいインクを入れましょう。
詳しくは「プラチナ万年筆|FAQ」をご覧ください。

万年筆の基本的な持ち方と書き方

お兄ちゃんが机に座り、力を抜いて万年筆でノートへ線を書いている様子

万年筆を初めて使うときに最も大切なのは、ペン先の向きと力加減です。

特別な持ち方を覚えようとして指に力を入れるよりも、普段使っているペンに近い自然な持ち方から始めましょう。

ペン先の表側を上に向ける

一般的な万年筆では、模様や文字が刻まれているペン先の表側を上に向けます。
黒色や樹脂製のペン芯が見える側が下です。

ペン先を横に大きく傾けると、左右の先端が紙に均等に触れず、インクが出にくくなります。

まずは、ペン先の表側が上を向くようにして、左右の先端がどちらも紙に触れる位置を探しましょう。

紙に対して自然な角度で持つ

万年筆には、すべての人に共通する一つの正しい角度があるわけではありません。

手の大きさや持ち方、ペン先の種類によって、使いやすい角度は異なります。
ただし、ボールペンのようにほぼ垂直に立てたり、反対に大きく寝かせたりすると、書きにくくなる場合があります。

普段文字を書くときのように斜めに持ち、インクが安定して出る角度を探します。

ペン先を必要以上に寝かせたり、回したりしない

文字を書いている途中で軸を回す癖があると、ペン先の片側だけが紙に触れ、線がかすれることがあります。

最初にインクが滑らかに出る位置を見つけたら、できるだけその向きを保って書きましょう。

書いているうちに線が急に細くなったり、インクが途切れたりする場合は、ペン先の向きがずれていないか確認してみてください。

力を入れず、紙の上を滑らせるように書く

万年筆は、紙に押しつける力ではなく、ペン先から流れるインクで文字を書きます。

肩や手首の力を抜き、ペン先を紙に軽く触れさせます。
初めは直線や丸、ひらがななどをゆっくり書き、どの程度の力でインクが出るのかを確かめるとよいでしょう。

線を太くしようとして、強い筆圧をかけることは避けてください。
一般的な万年筆のペン先は、筆圧によって線幅を大きく変えることを前提としていません。

書き終わったらキャップを閉める

万年筆を机の上に置いておくときは、ペン先が乾かないようにキャップを閉めます。

数秒間手を止める程度であれば問題にならないこともありますが、書類を読んだり、席を離れたりする場合は、キャップを閉める習慣をつけましょう。

キャップには、インクの乾燥を防ぐだけでなく、万年筆を落としたときにペン先を守る役割もあります。

普段の取り扱いで気をつけたいこと

万年筆のキャップが閉まっていることを確認し、ペンケースへ収納している

万年筆は繊細な部品を備えた筆記具ですが、必要以上に恐れる必要はありません。

ペン先の乾燥を防ぎ、衝撃から守り、インク漏れにつながる扱いを避けることが基本です。

使わないときはキャップをしっかり閉める

キャップが十分に閉まっていないと、ペン先やペン芯のインクが乾きやすくなります。

差し込み式、ねじ式など、キャップの構造は製品によって異なります。
ねじ式の場合は、斜めにかみ合わせたり、必要以上に強く締めたりしないようにしましょう。

持ち運ぶときはペン先を上向きにする

インクを入れた万年筆を持ち運ぶときは、キャップを確実に閉め、可能であればペン先を上向きにします。

かばんの中で横向きや下向きになり、強い振動が加わると、キャップの中へインクが出ることがあります。ペンケースや胸ポケットなどを利用し、激しく動かないようにして持ち運びましょう。

パイロット社も、持ち運ぶ際は衝撃を避け、できるだけペン先を上向きにすることを勧めています。

参考:PILOT|万年筆を使う時の注意点

落下や強い衝撃を避ける

ペン先を下にした状態で万年筆を落とすと、ペン先が曲がったり、左右の先端がずれたりする可能性があります。

ペン先は、外見上わずかに変形しただけでも、書き心地やインクの流れが変わることがあります。
落とした後に急に書きにくくなった場合は、自分で曲げ直さず、販売店やメーカーに相談しましょう。

高温になる場所へ放置しない

直射日光が当たる場所や、夏の車内など、高温になる環境に万年筆を放置するのは避けましょう。
温度の変化によって内部の空気が膨張すると、インクがペン先側へ押し出される場合があります。
また、本体の素材が変色したり、変形したりする可能性もあります。

万年筆とボトルインクは、直射日光を避け、温度変化の少ない場所で保管しましょう。

万年筆用ではないインクを入れない

インクのボトルに入っていても、すべてのインクが万年筆に使えるわけではありません。

つけペン用インク、製図用インク、漫画用インクなどには、乾燥すると水に溶けにくくなるものや、万年筆の細い流路に適さないものがあります。

商品に「万年筆用」と明記され、万年筆本体のメーカーが使用を認めているインクを選びましょう。

また、アルコールや薬品を万年筆の内部へ入れたり、本体をアルコールで拭いたりすることも避けてください。樹脂や塗装、接着部分を傷める可能性があります。

万年筆のお手入れ方法

お母さんとお兄ちゃんが机の上で万年筆を洗浄している場面

万年筆のお手入れの基本は水洗いです。

使用するたびに洗う必要はありませんが、インクの色を変えるとき、インクの出が悪くなったとき、しばらく使わないときには洗浄します。

日常的に使い、使用後にキャップを閉めることも大切なお手入れの一つです。

基本のお手入れは水洗い

一般的なカートリッジ式万年筆は、次のような手順で洗浄します。

  1. 胴軸を外す
  2. 使用中のカートリッジをまっすぐ抜く
  3. コップに常温の水を入れる
  4. ペン先と首軸のうち、水に浸してよい部分だけを水に浸す
  5. 水が汚れたら新しい水に交換する
  6. ペン先側から出る水がきれいになるまで、水の交換と洗浄を繰り返す
  7. 柔らかい布や紙で表面の水分を取る
  8. 十分に自然乾燥させる

乾燥したインクが残っている場合は、しばらく水に浸します。
ただし、水に浸してよい範囲や時間は、万年筆の素材や構造によって異なります。

木軸、漆塗り、金属軸、特殊な機構を持つ製品などは、一般的な樹脂製万年筆と同じ方法で扱えないことがあります。必ず製品の取扱説明書を確認してください。

洗浄には常温の水か、メーカーが認めている温度のぬるま湯(一般的には30℃以下のぬるま湯)を使います。
熱湯は部品の変形や劣化につながるため使用しません。

コンバーターは水の吸入と排出を繰り返す

コンバーター式の場合は、残ったインクを出した後、ペン先を水に浸します。
インクを吸入するときと同じ操作で、水を吸い込みます。

吸い込んだ水を排出し、汚れが少なくなるまで繰り返します。

洗浄後はコンバーターの内部に水が残ることがあります。
柔らかい布などで外側の水分を取り、風通しのよい場所で十分に乾かしましょう。

コンバーターを洗うために、毎回細かく分解する必要はありません。
取扱説明書に記載されていない分解は避けてください。

インクの色を変えるときは洗浄する

前のインクが残った状態で別の色を入れると、色が濁ったり、想定とは異なる色になったりします。
インクの成分によっては、混ざることで詰まりや沈殿の原因になる可能性もあります。

色を変更するときは、残っているインクを出し、水がきれいになるまで洗浄します。
洗浄後に水分が残っていると、新しいインクが一時的に薄くなることがあるため、十分に乾かしてから入れ替えましょう。

長期間使わないときはインクを抜く

インクを入れたまま長期間保管すると、ペン芯の中でインクが乾き、目詰まりを起こすことがあります。

しばらく使わない予定がある場合は、インクを抜いて内部を水洗いし、十分に乾燥させてから保管します。

保管するときは、直射日光や高温多湿を避け、ペン先に強い力が加わらない場所を選びましょう。

無理にペン先やペン芯を分解しない

水洗いしても汚れが取れないからといって、ペン先やペン芯を工具で引き抜いてはいけません。

取り外せるように見える部品でも、正しい位置や適切な力加減で組み立てられています。
無理に分解すると、インク漏れや書き味の悪化、部品の破損につながります。

洗浄しても改善しない場合は、購入店やメーカーの修理窓口へ相談しましょう。
パイロット社も、洗浄時にペン先とペン芯を首軸から抜かないよう注意を促しています。

出典:PILOT|万年筆のお手入れ方法

インクが出ない・かすれるときの確認方法

胴軸を外しカートリッジのインク残量と装着状態を確認、別の紙へ試し書きをしペン先の表側が上を向いているか確認、水を入れたコップにペン先と首軸の洗浄可能な部分だけを浸す

万年筆のインクが出なくても、すぐに故障とは限りません。

カートリッジを交換した直後や、しばらく使っていなかったとき、ペン先の向きがずれているときなどにも、インクが出にくくなることがあります。

次の手順で確認しましょう。

インクが残っているか確認する

まず、カートリッジやコンバーターの中にインクが残っているか確認します。

インクが少なくなっている場合は、新しいカートリッジに交換するか、コンバーターにボトルインクを補充してください。

外から残量が見えない製品では、胴軸を外し、インクがこぼれないようにペン先を上に向けて確認します。

カートリッジが正しく装着されているか確認する

カートリッジが十分に差し込まれていないと、インクがペン芯へ流れません。

カートリッジを外す前に、カートリッジが傾いていないか、奥まで差し込まれているかを確認してください。

途中まで使ったカートリッジを何度も抜き差しすると、接続部分が緩んだり、インクが漏れたりする可能性があります。交換が必要な場合は、机を保護して慎重に作業しましょう。

ペン先の向きと紙への当たり方を確認する

ペン先が横向きになっていると、左右の先端が紙に均等に触れず、線が途切れることがあります。

ペン先の表側を上に向け、筆圧を弱めてゆっくり試し書きしてください。
別の紙でも試すと、万年筆側の問題か、紙との相性によるものかを判断しやすくなります。

ペン先の乾燥や汚れを確認する

インクが残っているのに出ない場合は、ペン先やペン芯の中でインクが乾いている可能性があります。

ペン先に紙の繊維や目に見える汚れが付いている場合は、柔らかい布や紙でそっと取り除いてください。先端の硬い道具をペン先の切り割りに差し込んではいけません。

乾いたインクが原因と考えられる場合は、正しい方法で水洗いします。
セーラー社の公式情報でも、インクの出にくい原因として、乾いたインク成分や異物による詰まりが挙げられています。

詳しくは、「セーラー万年筆|インクの出が悪い」をご覧ください。

水洗いしても直らない場合は相談する

次のような場合は、無理に直そうとせず、販売店やメーカーへ相談しましょう。

  • 水洗いしてもインクが出ない
  • ペン先が左右にずれている
  • 落とした後から書きにくくなった
  • ペン先が曲がっている
  • 首軸や胴軸からインクが漏れる
  • カートリッジが固定されない
  • 軸やキャップにひびが入っている

研磨剤でペン先を削ったり、ペン先を指や工具で曲げたり、部品を無理に分解したりすると、状態が悪化する可能性があります。

万年筆を初めて使う人のよくある疑問

毎日使わなくても大丈夫?

必ず毎日使わなければならないわけではありません。

ただし、インクを入れたまま長期間放置すると、ペン先やペン芯の中でインクが乾くことがあります。数日程度使わない場合は、キャップを確実に閉めて保管してください。

長期間使わない場合は、インクを抜き、水で洗浄してから保管してください。

万年筆は、適度に使うことが、インクの乾燥や目詰まりを防ぐ効果的なお手入れになります。

違うメーカーのカートリッジも使える?

カートリッジは、メーカーや製品によって形状が異なります。

見た目が似ていても、接続部分の太さや長さが合わないことがあります。無理に差し込むと、本体を傷めたり、インクが漏れたりする可能性があるため、注意してください。

基本的には、万年筆のメーカーが指定するカートリッジを使用します。パッケージや取扱説明書に記載されている適合品番を確認しましょう。

インクの色はすぐに変更できる?

インクの色は変更できますが、前の色が残ったまま新しいインクを入れるのは避けてください。

現在のインクを抜き、水がきれいになるまで内部を洗浄します。その後、十分に乾燥させてから新しいインクを入れます。

洗浄が不十分だと、最初のうちは前の色と新しい色が混ざって出てくることがあります。

普通のノートやコピー用紙にも書ける?

一般的なノートやコピー用紙にも書けます。

ただし、紙の種類とインクの組み合わせによっては、線の周囲にインクが広がる「にじみ」や、紙の裏側までインクが透けて見える「裏抜け」が起こります。

大切な書類や手帳に書く前に、目立たない場所や同じ種類の紙で試し書きをしてから使うとよいでしょう。

にじみや裏抜けが気になる場合は、次の方法をお試しください。

  • 現在より細いペン先を選ぶ
  • インクの出る量が少ない万年筆を使用する
  • 万年筆用として販売されている紙を選ぶ
  • 使用するインクを変えてみる

同じ万年筆でも、紙やインクが変わると書き心地や線の太さが変わります。これも、万年筆を使用する中で分かる特徴の一つです。

手や服にインクが付いたらどうする?

手に万年筆用インクが付いた場合は、石けんを使って洗います。一度では完全に落ちない場合がありますが、通常は日常生活の中で少しずつ薄くなります。

詳しくは、「PILOT|手についたインクについて」をご確認ください。

衣服に付いた場合は、自己判断で洗剤や漂白剤、薬品を使うと、汚れが広がったり、生地を傷めたりする可能性があります。

インクの種類や衣服の素材によって対処方法が異なるため、万年筆用インクが付いたことを伝え、インクの商品名が分かる場合は併せて伝えたうえで、染み抜きに対応するクリーニング店へ相談してください。

詳しくは、「PILOT|衣服に付いたインクについて」をご確認ください。

まとめ|基本を守れば、万年筆は長く使い続けられる

万年筆は難しそうに見えますが、使い始めるために必要な基本はシンプルです。

  • ペン先の表側を上にして持つ
  • 強い筆圧をかけない
  • 使用後はキャップをしっかり閉める
  • 適合するカートリッジやコンバーターを使う
  • 万年筆用のインクを選ぶ
  • 色を変えるときや長期間使わないときは水洗いする
  • インクが出なくても、振ったり分解したりしない
  • 洗浄しても直らない場合は専門家に相談する

万年筆の書き心地は、ペン先だけで決まるものではありません。
インクや紙、持ち方によっても変わります。

最初から理想の書き方を求めるのではなく、まずは短い文章や日記、予定などを書いてみましょう。
使ううちに、自分が書きやすい角度や力加減、好みの文字の太さが分かってきます。

インクを補充し、汚れたら洗って、また使う。手入れを重ねながら一本の万年筆を長く使い続けることは、万年筆ならではの楽しみです。

便利さだけでなく、文字を書く時間そのものを味わえること。それが、万年筆が長く使われている理由の一つではないでしょうか。

参考資料

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